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大西良雄ニュースの背後を読む

2018年9月18日 17:16

プーチン発言で露見した成果が見えない「自慢の安倍外交」

(2018年9月18日筆)

 自民党総裁選の最中、ウラジオストックで開かれたロシア主催の「東方経済フォーラム」でプーチン大統領から「年内に日ロ平和条約を結ぼう、前提条件を付けずに」という発言が飛び出した。平和条約締結の「前提条件」は北方領土の帰属問題の解決というのが安倍総理とプーチン大統領の共通認識だったと聞かされてきたが、そうではなさそうだ。


歯舞、色丹返還に止まる62年前の日ソ共同宣言へ先祖返り

 プーチン発言は北方領土の帰属問題を「棚上げ」にして、日ロの経済協力などを前進させる平和条約を先行させようという主旨だろう。これをプーチン大統領は「今思いついたのだが」と冗談めかして述べたが、どうやら思いつきや冗談で言ったのではなさそうだ。

 この発言の前段でプーチンは「1956年の日ソ共同宣言は日本の国会でも承認された。その後、日本側が実施を拒否した」といっている。改めて1956年、鳩山一郎総理とブルガーニン・ソ連大臣会議議長の間で合意され両国議会が批准した共同宣言を見てみよう。

 日ソ共同宣言では、第1項で日ソ間の戦争状態の終了、第6項でソ連(ソヴィエト連邦社会主義共和国連邦)が日本に対する賠償請求権の放棄を宣言した。さらに第9項で両国間に正常な外交関係が回復された後、「平和条約の締結に関する交渉を継続する」とした。9項では、続いて以下のように書かれている。

 「ソ連は日本国の要請に応えかつ日本国の利益を考慮して、歯舞諸島及び色丹島を日本国に引き渡すことに同意する。ただし、これらの諸島は、日本国とソ連との間の平和条約が締結された後に現実に引き渡されるものとする」

 平和条約の締結は、通常、戦争状態の終了、賠償請求権さらに領土・国境線の確定という3項目の合意をもって完結する。前2項は1956年の日ソ共同宣言ですでに合意している。日ロ平和条約の締結は、残る「領土・国境線の確定(北方領土の帰属)」の合意によって完結するというのが、日ソ共同宣言の主旨だ。

 ただし、プーチン大統領が改めて言及した「日ソ共同宣言」は、歯舞諸島及び色丹島を平和条約締結後に引き渡すとだけ書かれており、日本側が主張する北方4島のうち国後島、択捉島の返還には一切触れていない。プーチン氏がフォーラムで「日本側が実施を拒否した」とも述べたが、これは日本側が共同宣言に書かれていない国後、択捉を含む北方4島の返還にこだわり、平和条約の締結を拒否しているという意味だろう。


国後、択捉はロシアの軍事戦略上の拠点、返還はあり得ない

 東方経済フォーラムでのプーチン発言は、62年前の日ソ共同宣言に先祖返りしたもので思いつきでも冗談でもなかった。彼には国後、択捉を返還する気など毛頭ないのだ。

 ロシアにとって北方領土を含むクリル諸島(千島列島)は、①ウラジオストック配備の主要艦艇の太平洋への自由なアクセスを確保する、②カムチャッカ半島の先端に配備する戦略原潜の航行を防護しオホーツク海での自由な活動を確保するという意味で、戦略的重要性がますます高まっている。クリル諸島の中間に位置する松輪(マツワ)島にはロシア太平洋艦隊の基地設営のための調査が実施されているという報道もある。

 防衛省によると、ロシア軍は国後、択捉両島にそれぞれ機関銃・砲兵連隊を置き、両島合わせて約3500人の兵隊が駐留を続けている。2016年には北海道に近い国後島の駐屯地を拡充、地対艦ミサイル「バル」(射程距離130キロ)を配備した。両島連隊の師団司令部がおかれている択捉島でも新駐屯地の建設がすすめられ地対艦ミサイル「バスチオン」(射程距離300キロ)の配備が確認されている。そのほか両島合わせて392の軍事関連施設の建設が予定されているという。

 安倍政権下で導入が進められているイージス・アショアには極東ロシアがすっぽり入る射程距離のミサイルSM3が搭載される。日米の軍事連携が強化される中、日本がSM3は防衛専一の迎撃ミサイルだからといってもロシアには脅威に映る。ロシアには北方領土、とりわけ太平洋への南の出口に当たる国後、択捉の戦略的重要性は増すばかりだろう。


「領土返還の希望を与えて対ロ投資を引き出すという芝居は続かない」

 こうしたプーチン大統領の姿勢は、22回にも上る安倍総理との首脳会談でも何ら変わることがなかったのではないか。

 安倍総理は2016年12月のプーチン大統領との首脳会談では、北方4島での共同経済活動や3000億円の極東ロシアでの対ロ経済協力を実施することで、「平和条約が結ばれ北方4島が返ってくる」という期待を国民に振りまいた。

 それについては、本ブログ「エビで大きな鯛を釣れるか? 3000億円の対ロ経済協力」(2016年12月19日)で詳しく触れたので繰り返さないが、その後1年9か月たっても北方4島の共同経済活動、極東ロシアでの対ロ経済協力が進んでいる気配がない。総理自身、「スムーズにいっていない」と認めており、エビ(経済協力)で大きな鯛(北方4島の返還)が釣れる状態になってはいないということだ。

 今回のプーチン発言に関してロシアの経済紙コメルサント(電子版)は、以下のような皮肉な専門家の解説を掲載したという。

 この専門家は、『日本の協力や投資を引き出すために「領土問題がいつかは解決するという希望を与えておけばよい」という認識がロシアにはあったが、思惑どおり協力は進まず、今回のプーチン提案で「(希望を与えて投資を引き出すという)芝居は続かないというモスクワの意思を示した」』(朝日新聞9月14日付け)と指摘したとという。

 専門家の解説が正しければプーチン氏のほうは、領土返還というエビで日本から対ロ経済協力という大きな鯛を釣ろうと芝居を打ったが叶わず、領土返還に対する本来の対日強硬姿勢をむき出しにしたということになる。


成果が見えない安倍外交、幻想を与えて政権維持計る政略に限界

 だが、日本がもっと大きなエビ(大規模な対ロ開発・輸入協力)を差し出しても、軍事戦略の拠点化を進めるプーチン大統領が国後・択捉まで返還するとは考えられない。

 相手のプーチン氏は元KGBの対外諜報部員だった。クリミヤ半島を併合して国際的批判を浴びても動じない「ロシアが第一」の策謀家だ。安倍総理は、大統領に「ウラジーミル」と呼び掛け、さも「親密さ」が日ロ交渉を前進させるという他愛のない幻想を日本国民に与え続けてきたが、見苦しい。もうよしたらどうか。自身の総理在任中に北方4島が返ってくるという幻想を国民に与え続け、政権の延命を図ることも止めたらどうか。

 上智大学の三浦まり法学部教授は、自民党総裁選の望む石破茂氏に対して、対トランプの貿易交渉、北朝鮮との拉致交渉、日ロの領土交渉など「安倍外交が本当に結果を伴っているのかを問うてほしい」とし、「安倍政権にとって実は外交が最も成功していない分野なのに十分語られていない。軍事や安全保障に強みを持つ石破氏だからこそ、安倍外交の対抗軸を示してほしい」と述べている(朝日新聞9月14日)。

 石破氏だけでなくジャーナリズムにも問うというなら三浦教授の言に全く同感だ。今回取り上げた日ロ交渉だけでなく、安倍外交の成果は実に疑わしいと小生も強く感じている。

2018年9月 3日 13:57

雑誌・書籍には朗報? 菅官房長官の携帯料金4割値下げ論

(2018年9月3日筆)

 小生も最近、携帯電話を長年使っていたガラケーからスマホへ変更した。電話とメールぐらいしか使わないので最低料金のプランにしてくれと頼んだが、ギガが小さすぎるだの、このメニューも追加できるだの、よく理解できないことをまくしたてられた。確か4年縛りの条件も付いたように思える。結局、契約終了後の料金が高いのか安いのか、高齢の小生にはよくわからなかった。


競争なき携帯大手3社の巨額な利益、高まる家計の携帯料金負担

 そんな折、菅官房長官が講演で、携帯電話の利用料は余りにも不透明で競争が働いていない、大手携帯電話会社は巨額の利益を上げており、「携帯料金は4割程度下げる余地がある」と述べた。携帯電話の利用料は余りにも不透明だという菅官房長官の指摘は小生も、つい最近体験したことになる。そして、携帯電話3社の利益が巨額であることも事実だ。
 
 大手携帯3社の2017年度営業利益額はソフトバンクGが1兆3038億円、NTTドコモ9732億円、KDDIは9627億円だった。いずれも上場企業の営業利益額ランキング5位以内に入っている。18年度はドコモ、KDDIも1兆円前後になるという。

 売上高営業利益率はソフトバンクGが14.2%、NTTドコモ20.4%、KDDIは19.1%だった。営業利益額首位のトヨタ自動車の営業利益率は8%だったから業態が違うとはいえ携帯3社の利益率は高い。携帯電話シェア9割の「競争なき大手3社」が「巨額の利益を上げている」のは菅官房長官がいうとおりだ。

 今後、携帯電話の寡占市場にどのような競争原理が持ち込まれるのか、携帯電話料金が実質的にどの程度引き下げられるのか、その行方については専門家の議論に待ちたい。携帯料金引き下げをめぐる小生の興味は、以下の表の数字に示されている。


年10万円を突破した携帯料金への支出、どんどん減る大学生の書籍費
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 総務省の家計調査(総所帯ベース)によると年間の電話通信料支出は2010年~17年の間に1万1436円増加(10.3%増)した。このうち固定電話への支出は8896円減少したが移動電話(携帯電話)への支出は2万339円増加、25.4%もの大幅増加になっている。利用料金が高いスマートフォンへの切り替えが進んだ影響が出た。

 その結果、税金、社会保険料支出を除いた正味の所帯消費支出に占める電話通信料の割合は3.66%から4.19%に上昇した。携帯電話への支出増加が家計を圧迫していることになる。

 家計消費支出が停滞、物価が上がらないのがアベノミクスの頭痛の種だ。社会保険料負担の増加などで家計収入の伸びが鈍い(高齢所帯は年金の減少で実収入そのものが減少)。そのうえ電話通信料をはじめNHKテレビ視聴料、電気・ガス・水道代、ガソリン代など固定費的支出が増え家計に余裕がなくなっていることも原因になっている。

 上表の大学生の書籍費(月額を年換算)は全国大学生協連の「学生生活実態調査」に示されたものだが、書籍費は同じ10年~17年の間に9000円減少(35.9%減)している。大学生の場合も、携帯電話の利用料金負担が増加して書籍購入に回すカネが減っているのではないか、と推測される。


スマホ利用代金に食われ書籍雑誌が減少、携帯料金値下げは出版業界の朗報?

 通勤通学の電車内の風景も様変わりだ。かつて車内で乗客の多くが雑誌や文庫、新書など読んでいたが、今では乗客のほとんどがスマホに見入っている。大学生だけでなくサラリーマンもスマホの利用料金の支払いに追われ書籍購入どころではないのだろう。

 そのせいだけではないだろうが、かつて小生も属していた出版業界の現状は惨憺たるものだ。紙の出版物の推定販売額(出版科学研究所調べ)は1996年の2兆6564億円(雑誌1兆4872億円、書籍1兆1692億円)をピークに減少を続け、2017年には1兆3701億円(雑誌6548億円、書籍7152億円)と半減した。

 やや八つ当たり気味の比較になるが、紙の出版物の推定販売額はソフトバンクGの営業利益並み、雑誌、書籍それぞれの販売額はNTTドコモ、KDDIの営業利益に遠く及ばない。紙の出版物の販売額(売上高)が携帯3社の営業利益に及ばないという凋落を前にして出版界OBの小生は胸を締め付けられ思いがする。

 そこに菅官房長官の携帯料金の4割程度値下げ論が登場した。なぜ4割程度なのか根拠がはっきりしない点もあるが、ともあれ、現状年間10万円超の携帯料金が4割値下げされれば年間4万円程度を他の消費に回せる余裕が出てくる。

 紙の出版物では書店の急速な減少、版元の経営危機、版元と書店をつなぐ取次の赤字化、取次を経由する物流網の崩壊と衰退が止まらない。紙の出版物の衰退を埋めるべく電子出版、ネット販売がもっと伸びてくれたらと思う。

 しかし、電子出版は伸びてきてはいるが紙の衰退を補えず、紙と電子合わせても出版物の販売額は減少が止まらない。紙の出版物でも電子出版物でもいいから、携帯料金の4割程度値下げで浮くはずの年間4万円の一部を出版物の購入に充ててもらいたい、それで出版業界の衰退を止めてもらいたいと出版OBの小生は思うばかりだ。

2018年8月20日 14:43

高齢所帯には日銀の2%物価目標など要らない


(2018年8月20日筆)

 日銀は「物価はすべて金融的現象だ」「マネーを増やせば物価は上がる」とするリフレ派の主張を元に異次元の量的・質的緩和を継続してきた。しかし、消費者物価上昇率は、5年以上にもなる異次元の金融緩和にもかかわらず、目標の2%に達しない。

 物価が上がらない理由を、時には消費税率引き上げの反動、時には原油価格の下落のためだと日銀はいってきた。直近では、省力化投資の拡大やインターネット通販の拡大、デジタル技術の進歩など新手の理由を挙げつらい、物価の下押し圧力になっているという。

 しかし、「物価はすべて金融的現象だ」というなら、他に物価が上がらない理由を挙げつらうのはおかしい。マネーを増やしても物価は上がらなかった、異次元の金融緩和という手段に狂いがあったと反省するのが日銀のとるべき態度だと思うが、口が裂けても「狂いがあった」などと黒田日銀総裁と安倍総理はいうまい。


国民の「デフレ慣れ」より家計の「値上げ許容度」の低下が原因

 それはさておき、気になるのは日銀が物価の上がらない理由の一つに、デフレの15年間(そのうち12年間は自民党政権)に国民に染み付いた「デフレマインド」を強調していることだ。

 日銀の「経済・物価情勢の展望(2018年7月)」にも「物価上昇率の高まりに時間を要している背景には、長期にわたる低成長やデフレの経験から、賃金・物価が上がりにくい考え方や慣行が根強く残っていることがある」と書かれている。国民が緩やかな継続的な物価下落(デフレ)に慣れて脱出できない、デフレ慣れ、デフレ好みの状態を続けているから賃金が上がらず、連れて物価も上がらないという意味だろう。

 しかし物価が上がらないのは国民の「デフレ慣れ」が原因ではなく、家計の「値上げ許容度」が低下しているためだ。

 勤労者所帯では、アベノミクス以降も賃上げが消費税上昇分を含む物価上昇に追い付かないうえ、社会保険料負担の増加などで可処分所得が増えてない。賃上げが見込めない高齢者所帯では、社会保障給付が大きく削減され実収入そのものが減少している。

 そのうえ原油価格や農畜産物価格などが上昇、生鮮食品や電力料金、ガソリン代など生活必需品の物価が上昇している。携帯、パソコンなど通信料金、医療費も下がらない。この状態では消費者は企業の値上げを受け入れることができない。家計の値上げ許容度は低下せざるを得ない状態にある。


消費の主役・高齢所帯の「値上げ許容度」は大きく低下している

 家計の値上げ許容度については、特に、その多くが年金生活となっている高齢所帯の現状に触れておかねばならない。下表は家計調査年報に基づく主として年金が収入源となっている、所帯主が65歳以上の無職所帯(二人所帯)の1か月平均の収入と支出だ。

所帯主が65歳以上の無職所帯―社会保障給付の減少が痛手(1か月当たり年平均、単位円)
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 アベノミクス以降、高齢所帯は年金など社会保障給付が年約14万円以上減ったことを主因として実収入が年17万円以上も減り消費縮小を余儀なくされている。高齢所帯は消費性向(可処分所得に占める消費支出の割合)もエンゲル係数(消費支出に占める食費の割合)も上昇した。

 唐鎌直義・立命館大教授が「国民生活基礎調査」をもとに分析した結果によれば、65歳以上の高齢者がいる653万所帯の貧困率(生活保護水準以下)は2016年には27%に上昇、女性独居の高齢者250万所帯の貧困率は56%超にもなるという。こうした貧困高齢所帯の家計に「値上げの許容度」などあるはずがない。

 実は日銀の2%物価目標にとって見逃せない障壁のひとつはこの高齢所帯の増加にある。高齢所帯の増加に伴い2000年以降、総消費支出に占める60歳以上の高齢所帯の比率は30%台から50%台に上昇している(家計調査)。いまや消費支出の主力部隊となった高齢所帯の値上げ許容度が低下しているという現実を政府・日銀は直視すべきだろう。


賃金と物価好循環の外側にいる高齢所帯、年金目減りも進行

 第一生命経済研究所の星野卓也氏は「伸びない物価を年金制度から考える」とする18年7月のレポートで「現行の年金制度と消費市場における高齢者の増加が物価上昇の妨げになっていると疑っている」と書いている。

 年金生活者は、日銀が想定する「需給の引き締まり→それに伴う賃金の上昇=雇用者所得の増加→販売価格の引き上げ」という好循環メカニズムの輪の外側にいる。高齢者の消費に占めるシェアが上昇、現行の年金制度の枠組みは高齢者の物価上昇への耐性低下、ひいては企業の価格転嫁への躊躇につながっているのではないか、と星野氏はいうのだ。

 星野氏は高齢者の物価上昇への耐性低下の背後に「年金の実質目減り」があると指摘している。星野氏は、続く18年8月のレポート「なぜマクロスライド未発動でも年金は実質目減りしているのか」で、消費者物価(総合)上昇率でデフレ―トされた2018年度の実質年金給付額はアベノミクス前の2012年度に比べ6%程度低下したと分析している。

 賃金・物価が上昇しているのに年金給付額が増えないどころか減少する...。そうした結果をもたらす現行の複雑な年金計算ルールについては上掲の星野レポートを参照されたい。

 賃上げがない、年金が目減りする高齢所帯にとっての消費者物価とは、生鮮食品、エネルギーを含む総合指数であり、消費税率引き上げの影響を除外しない消費者物価指数である。賃金・物価の好循環の外側にある高齢所帯が消費の主役であり、高齢所帯には日銀が目標とする2%の消費者物価上昇率もまた許容の範囲を超えていることを知らねばなるまい。

2018年8月 6日 13:42

「引き締め」なのに「緩和継続の強化」という羊頭狗肉

(2018年8月6日筆)

 日銀は7月31日の金融政策決定会合で2016年9月の「長短金利操作(イールドカーブコントロール)の導入」以来の政策修正に踏み切った。

 その声明文のタイトルは「強力な金融緩和継続のための枠組み強化」となっている。タイトルを素直に読めば「金融緩和を強化する」という解釈になる。だが声明文の先を読んでいくと緩和どころか引き締め方向に転ずると言っているように見える。こういうのを羊頭狗肉(羊の頭を掲げて犬の肉を売るという中国の故事)というのだろう。

2%物価目標にこだわるなら2021年度以降まで緩和継続?

 「強力な金融緩和継続」という表現に適合するのは、「当分の間、現在のきわめて低い長短金利の水準を維持する」と述べた、政策金利のフォワードガイダンス(先行きへの案内、指針)の部分だ。しかしこれも「当分の間」とはいつまでか判然としない。

 日銀はこれまで消費者物価上昇率(生鮮食品を除く総合、消費税引き上げの影響を除く)が2%を安定的に持続するまで緩和を継続するといってきた。しかし、同時に発表された「経済・物価情勢の展望」では政策目標である消費者物価の見通しを下方修正している。

 消費者物価上昇率の見通しは18年度1.1%、19年度1.5%、20年度1.6%に変更された。見通しどおりだと2%物価目標の実現は2021年度以降になる。黒田総裁を再任した安倍総理の3期目の任期満了は2021年度だが、2%物価目標にこだわる限り、安倍総理の任期中は「強力な金融緩和を継続する」ことになる。

 ただ声明文には「2019年10月に予定されている消費税率引き上げの影響を含めた経済・物価の不確実性を踏まえて」とあるから、「当分の間」とは2019年10月の消費税率引き上げ後とも読め、消費税引き上げ後には金融緩和の解除を検討するということになる。しかし、消費税引き上げ後は消費減少から物価の反動下落が予想され、2%物価目標の達成が危うい。そんな中、緩和を解除するとすれば「2%物価目標」とはなんだったのか、疑われても仕方がない。

ステルステーパリングの後、長期金利の変動幅を拡大、「ひそかに利上げ」か

 黒田・日銀執行部の本意は「ひそかな緩和政策の修正」にあると思われる。声明文では「10年物国債金利(長期金利)は上下にある程度変動しうるものとし、買い入れ額については弾力的な買い入れを実施する」と書かれている。

 長期国債の買い入れ額については16年9月の長短金利操作の導入以降、購入量をひそかに減少させて来た。年間80兆円の長期国債の購入目標だったが現在では40兆円へ半減した。これを、購入削減を明示しないステルス(ひそかな)テーパリングと呼ぶが、半減しても物価には影響はなかった。国債購入にこだわるリフレ派には皮肉な結果だった。

 さらに今回は金利の修正にも踏み込んだ。「金利は上下にある程度変動しうるもの」と書き加え、記者会見で黒田総裁は「変動幅はおおむねマイナス0.1%~プラス0.1%の幅から、その2倍程度に変動しうる」と述べた。市場では、日銀が長期金利の上限をプラス0.1%から0.2%へ引き上げると解釈、長期金利は0.04%程度から一時0.145%へ急騰した。この急騰は世界の金利上昇にも波及した。

 なお短期の政策金利に絡んで黒田総裁は、銀行の日銀当座預金残高のうちマイナス金利が適用される政策金利残高を現在の10兆円程度から5兆円程度に半減させると語った。


超低金利、マイナス金利長期化による副作用にもようやく配慮

 金融政策決定会合では、長引く超低金利あるいはマイナス金利による副作用に配慮せざるを得なくなっているようだ。副作用の第一は、金利が低いため新規国債の売買が不成立となるなど国債市場が機能不全に陥っていることだ。この副作用には日銀は金利の変動幅(つまり国債価格の上下変動幅)を広げることで対応することになった。

 副作用の第二は、地銀を筆頭に貸出金利が低下して預貸利ザヤが縮む一方、国債への運用利回りが極度に低下、経営が悪化している。金融機関経営の悪化で金融仲介機能が低下するという副作用だ。これに対し、国債利回りの上限引き上げ、マイナス金利適用の日銀当座預金残高の半減(金融機関の負担軽減になる)によって応えるということになった。

 以上、副作用に配慮したと思われる政策変更に対して、量的緩和が物価を引き上げると信じるリフレ派の原田、片岡の2人の審議委員が反対票を投じた。両氏は、今回の政策修正が「2%物価の安定的持続」という目標をあいまいにする、ひいては日銀による国債の大量購入を継続、時には拡大する量的緩和を否定するのではないかと感じたのだろう。


総理が送り込んだリフレ派が獅子身中の虫になる時

 リフレ派に配慮してか、黒田総裁は、2%という物価目標そのもの、これを実現するための質的・量的緩和という政策手段が間違っていたのではないかという疑問に対して「これまでの金融政策が間違っていたとは全く思っていない」と強気の姿勢を崩さなかった。

 さらに今回の政策修正が緩和の出口に向かう一歩になるとする見方に対して、「早期に金融緩和の出口に向かい金利を引き上げるという一部の観測はこれ(今回の修正)で完全に否定できた」(日経8月1日付)と語ったが、総裁の悩みは深いのではないか。

 黒田日銀は大胆な量的・質的緩和を開始してて5年経過しても2%物価目標の達成が見通せない。2022年4月という自らの総裁任期中に目標を実現できるかもわからない。

 さらに日銀は、国債購入の縮減、停止、政策金利の引き上げ(引き締め)に向かう米英、EUの中央銀行から大きく取り残された。

 そして40兆円に減額した国債購入額だが、購入額は新規国債発行額(財政赤字額に相当)をなお上回る。日銀の国債保有残高の累増は止まらず、緩和の出口での日銀損失の拡大が懸念される。さらに安倍政権の人気取りの財政拡大、放漫財政を低金利で支えているという日銀への批判も絶えない。

 日銀の政策決定は、総裁、副総裁2名、審議委員6名、合わせて9名の合議によって行われる。安倍総理は副総裁や審議委員の交代にあたって原田、片岡審議委員、若田部副総裁と次々にリフレ派を送り込んだ。リフレ派は物価目標達成のために財政拡大を主張、財政赤字拡大も辞さずという姿勢のようだ。

 5年前、日銀は2%物価目標を金融緩和によって早期に実現する、政府は持続可能な財政構造を確立するという日銀と政府の共同声明(アコード)が結ばれた。リフレ派の主張は「持続可能な財政構造の確立」を反故にするものだ。黒田日銀執行部は、政府に財政規律の回復を促す一方、緩和政策を徐々に修正、緩和の出口で発生するショックを和らげる方向にひそかに動きたいと考えているのではないか。

 しかし、安倍総理が送り込んだリフレ派の面々が日銀のこうしたステルス作戦に立ちはだかり、黒田日銀の「獅子身中の虫」になるのかどうか、注意を怠れない。

2018年7月23日 10:13

酷暑の中、ブルーベリーの摘果を楽しんでいます

(2018年7月23日筆)

 暑い、異常に暑い。高齢者は暑さを感じにくくクーラーをつけないので熱中症にかかりやすいといわれます。小生夫婦、高齢者ですが暑さを十分すぎるほど体感、日中は居間、夜は寝室と29度の温度設定でクーラーをかけっぱなし。今月の電力料金は6月の3倍以上にもなりそうで、心配です。


手入れ無し、「藪状態」に広がったブルーベリー

 猛暑の中、庭ではブルーベリーの実が黒ずみ、摘果を待っています。ブルーベリーは日当たりのよい道路沿いの表庭と隣家に接する裏庭に植わっています。

 表庭は築30年、いや植樹30年、家内が市内のDIYで買って植えた1000円のブルーベリーの苗木がもとです。手入れを全くしなかったせいで、それが何本にも膨らみ「藪状態」になってしまいました。

表庭のブルーベリーの木

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この日は1.3キロの収穫でした

 裏庭は植樹3年ほどです。小生夫婦がガーデニングを唯一の趣味とするのを知ったのでしょうか、知人がプレゼントしてくれた苗木がもとです。大きな実が付いていました。ブルーベリーは一本だけだと実を付けにくいと言いますから、家内が駅裏の花屋で苗木を一本買ってつがいとして植え込みました。他に表庭のブルーベリーを2本移植しましたので、ここも「藪状態」になりつつあります。

 表庭は数年前から無数とも思えるブルーベリーの実がなり、毎年、梅雨時から摘果作業を始めています。裏庭のブルーベリーもうれしいことに今年から本格的に実をつけ始めました。まだ数は少ないのですが実が大きく摘果を開始しました。


野鳥と闘い、蚊の攻撃を避け、首、腕の疲れ、酷暑に耐え

 摘果にあたって困ったことがあります。その一つは野鳥です。野鳥は花芽をつっつき熟れた実をついばみます。特につがいで訪れるヒヨドリ、ハクセキレイ、仲間を呼び集めるオナガがわれら夫婦の天敵です。熟したブルーベリーの実を天敵に奪われないよう全体に防鳥網をかぶせました。網の隙間からはみ出し実は彼らに捧げますが、残りはすべてわれらがいただきます。

 もう一つは、背の高さ以上に伸び「藪状態」になっている表庭のブルーベリーです。特に天井付近に大きな実がなっています。これを摘果するには小生の背は低すぎ腕も短かすぎます。手製の踏み台を作りに藪の真ん中に置きこれに乗って摘果するのですが、上を見過ぎて首も腕も疲れて困ります。

 作業場が「藪状態」ですので、蚊の攻撃を避けられません。虫よけのスキンガードを手足、首筋に噴霧した上に蚊取り線香を焚いて作業開始です。余計な費用が掛かり困惑しています。

 最後はこの暑さです。今年は特に梅雨明けが早く7月の第2週から始めた摘果は猛暑の中でした。パンツまで汗にまみれ作業が終わったらすぐお風呂に駆け込みます。最初は日中に作業していましたが暑さに耐えられず、早朝5時ごろの摘果に変えました。それでもすぐ30度以上になり作業後は風呂へ直行です。水道代がうなぎ上り、この暑さ何とかしてください。

 とか言いながら、夫婦で2日ないし3日おきに摘果しています。1回の収穫は1.3キロ前後です。これまで5回摘果しましたので収穫量は計6キロ前後ではないでしょうか。あと3回は収穫できそうです。ウフフ(笑い)。


大粒の実が少ない、思い切った剪定が必要なのだが...

 ブルーベリーの実は大粒ほど甘く小粒は幾分酸っぱい。小宅の多数派は小粒です。なぜ店で売っているように大粒が少ないのか、これが最大の疑問であり悩みでもありました。

 なぜか、いつものようにインターネットで調べてみました。問題はブルーベリーを手入れせず「藪状態」に育ててしまったことにありそうです。収穫を終えた夏場と花芽が付く2~3月に枝を剪定しないから、実が付きすぎ栄養が分散して小粒になると書いてありました。

 思い切ってひ弱な枝、上に伸びた枝、あちこちに生えたシュートを剪定すれば「藪状態」が解消、少なくなった実に栄養が集中し大きな実がなる。しかも風通しが良くなる。やぶ蚊は減り、踏み台もいらない、首も腕も疲れない、防鳥網を張る作業も簡単になる。剪定は一挙両得どころか、三得、四得にもなります。

 家内はいつも大胆です。今回もブルーベリーの木を徹底的に切り刻み現状の半分に縮めてくれと言います。小心者の小生はそんなに切り刻んだら来年は実がならなくなると怯えています。日に日に剪定の夏場が近づいてきます。さあ、私はどうすればよいのでしょうか。
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大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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