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大西良雄ニュースの背後を読む

2017年12月 4日 13:54

中国はAIなど先端技術産業で日本をすでに凌駕

(2017年12月4日筆)

 英FT紙は「AI 中国の決断と米国の油断」(邦訳)と題する記事の中で、「60年前、ソ連が世界初の人口衛星「スプートニク」を打ち上げて世界を驚かした。(中略)中国が7月、2030年までに世界の人工知能(AI)産業でトップに立つという計画を明らかにしたことは、今日のいわば『スプ―トニック・ショック』といえる」(日経新聞11月30日朝刊)と書いた。

 中国国務院は2017年7月、「次世代AI発展計画」を発表、計画ではAIソフト、機器、知能ロボット、自動運転車、仮想現実(VR)などを重点産業とする一方、政府は脳科学や量子コンピュータ、ロボット工学、ビッグデータ研究などの支援に取り組むという。そして、「2030年までにAIの理論、技術、応用で世界的なリーダーになりAI技術革新の中心地になる」とした。


革新的テクノロジーに優れる「スマート・カンパニー」に続々ランクイン

 現在のAIの理論、技術、応用の圧倒的リーダーはもちろんアメリカだが、中国は2030年まで今後13年間でアメリカに追い付き、追い抜くというのだ。模倣は得意だが独自の技術開発力は劣ると中国に先入観を持つ人は、最先端のAI分野でアメリカを凌駕するなど、そんなことが可能かと疑うに違いない。

 だが中国では先端企業が続々誕生、米マサチューセッツ工科大学(MIT)が発行する「MITテクノロジーレビュー」誌が発表した2017年版「スマート・カンパニー・世界トップ50」に次々にランクインしている(下表)。

「スマート・カンパニー・世界トップ50」に選ばれた中国の先端企業

6位・アイフライテック(人工知能・音声認識)、8位・テンセント(AI研究、ゲームAI等)、11位・メグビー(顔認証決済)、25位・DIJ(民生用ドローン)、41位・アリババ(クラウドコンピューティング、ビッグデータ等)、49位・アント・フィナンシャル(スマホ決済サービス)、50位・バイドゥ(国立AI研究所の運営、自動運転等)
 スマート・カンパニーとは革新的なテクノロジーと効果的なビジネスモデルを持つ先端企業のことで、50位のうち6割が米国企業だが中国企業は7社入った(2016年は携帯のファーウエイ(華為)、配車アプリの滴滴出行など4社だった)。日本企業は16年にはトヨタ、ファナック、LINEの3社がラインインしていたが、17年は残念ながらゼロになった。


ネット通販はアメリカの2倍、モバイル決済登録は延べ12億人

 中国には企業がAI分野で強くなれる土壌がある。ひとつは14億人の巨大消費市場でのインターネット取引の盛り上がりだ。世界の電子商取引の40%以上が中国国内で行われ、中国のネット通販の規模はアメリカの2倍近い。

 さらに日銀調べによると、アリババ系「アリペイ」、テンセント系「ウィーチャットペイ」の2社のモバイル決済登録者は延べ12億人に達し、中国では都市部消費者の98%が店頭でのモバイル決済を利用している(日米独のモバイル決済利用率は2~6%に過ぎない)という。

 中国の膨大なネット取引は人工知能が解析、制御指令を発するのに不可欠なビッグデータの宝庫になる。中国が半導体やスマホなど高機能携帯端末などAIに関連するほとんどの電子機器の生産基地になっていることも有利になる。

 AIをリードする中国のインターネット大手、アリババ、テンセントは世界の時価総額ランキングでトップテンに入り、上位を占める米国のアップル、アルファベット(グーグル)、アマゾン、フェイスブックを猛追している。携帯通信のチャイナモバイル(本社香港)も上位にランクされている。


科学技術論文の生産でも急成長、10年後ノーベル賞受賞輩出か

 習近平総書記は10月に開催された第16回中国共産党大会で中期的な経済政策である「現代化経済体系の構築」を示したが、その2番目に革新型国家(イノベーション強国)の建設加速を挙げた。さらに2020年~35年の間に科学技術力を大幅に向上させ「革新型国家の上位」に上り詰めるとした。

 中国では国家を挙げたイノベーション(技術革新)に本腰が入ることになるが、2015年策定の「メイド・イン・チャイナ2025」ではイノベーションの重点産業に人工知能、集積回路、量子コンピュータ、第5世代モバイル通信、電気自動車などを指定している。AI産業の育成、国家資金の投入は着々と進められてきたといえよう。

 中国はイノベーションの源泉となる科学技術論文の生産でも目覚ましい躍進を遂げている。10年後、アジアでは日本に代わって中国が科学技術研究でノーベル賞受賞者を輩出する国になるに違いない。

 文部科学省傘下の科学技術・学術政策研究所による「世界の注目度の高い論文(引用回数上位10%の論文)の生産」についての調査によると、中国の総合順位は1991年-93年の18位から2011年-13年調査では米国に次ぎ2位に浮上、現在も2位を維持し1位のアメリカを追っている。日本は2000年代前半の4位から現在は9位にまでランクを下げた。

 中国は、科学技術論文の分野別順位では化学、材料化学、計算機・数学、工学でアメリカを抜いて1位となった。計算機・数学の分野で1位になっているのは、スーパーコンピュータや量子コンピュータなどAI技術に関係の深い分野で中国が先行し始めた証拠でもある。

 トランプ米大統領は研究開発予算を大幅に削減する一方、研究開発の担い手である移民の削減に大わらわだ。日本では大学や研究機関は研究開発予算を減らされ研究員の大半が非正規の有期雇用だ。そうした間隙を縫って科学技術で後発だった中国はイノベーション強国への道を着々と歩むことになる。

2017年11月20日 12:23

「参院の合区解消」のための改憲など必要ない

(2017年11月20日筆)

 安倍総裁が掲げた4つの憲法改正項目(自衛隊の明記、緊急事態条項、教育の無償化、参院の合区解消)のうち、参院の合区解消についての議論が自民党憲法改正推進本部(細田博之本部長)でなされ、いちはやく成案を得たという。

 4つの項目のうち参院の合区解消は憲法改正の必要性が最も疑われる項目だと思っていた。その議論が最も早く成案を得たのは、2019年夏に行われる参院選での自民党の党利党略があるためと思われる。そうだとすれば噴飯ものだ。


投票価値の格差(一票の格差)を無視する自民党改憲案
格差解消なら参院定数の拡大必死で、議員は「改憲太り」

 少し解説しよう。参議院議員は「選挙区」選挙と「全国比例代表」選挙で選ばれる。2016年参院選からこのうち「選挙区」選挙において島根と鳥取、徳島と高知それぞれ2選挙区が1つに合区され、4議席が2議席に削減された。

 その結果、「選挙区」選挙によって都道府県から少なくとも議員が一人選出されるという体制が崩れた。これに反対しているのが自民党だ。自民党憲法改正推進本部は憲法47条に「広域的な地方公共団体(都道府県)から少なくとも一人が選出されるように定める」とする1項を加え、選挙区の合区を解消するという。

 この自民党の改憲案からは島根、鳥取、徳島、高知という自民党が強い選挙区で自民2議席を復活させる狙いが透けて見える。だが、参院の合区は2010年参院選に関する最高裁の2012年判決にもとづく。自民党の改憲案はこの最高裁の判断を覆してでも議席回復を狙おうとするものだといえる。

 2010年参院選では議員一人当たり有権者数で見て最大1対5の投票価値の格差があった。当時、神奈川県の有権者は鳥取県の有権者の5分の1の投票価値しか持たなかった。最高裁は「都道府県を選挙区の単位として固定する結果、その間の人口較差に起因して投票価値の大きな不平等状態が長期にわたって継続していると認められる」として不平等状態の解消を求めた。

 憲法14条は「すべての国民は、法の下に平等であって、(中略)、差別されない」と謳っている。投票価値の格差は国民を明らかに差別するもので、「選挙区」の合区はすべての国民の「法の下の平等」を回復する措置だったといえよう。

 だが自民党の改憲案には国民にとって最も大切な投票価値の格差(一票の格差)への配慮がない。地方の人口減少、都市への人口集中が進むという趨勢は変わらず、今後も投票価値の格差は拡大する。16年参院選でも最大1対3の格差があった。

 そうした中で、「都道府県から少なくとも一人が選出される」ことを憲法47条に付記すれば、参院の議員定数が変わらない限り、ますます投票価値の格差が拡大するというジレンマが生じる。

 例えば、都道府県から最低一人選出を確保したうえで投票価値の格差を解消しようとすれば、投票価値が小さくなった都道府県からの選出議員数を増やすほかない。つまり、参院の議員定数を増やすことになり、定数削減が叫ばれる中、議員数は逆に「改憲太り」となる。議席を確保したい卑しい議員心理に便乗した改憲だ。

 参議院は憲法上、法案、予算、条約、総理指名などの議決権で衆議院に劣後する。そのうえ、議員の政党化が進み議論が衆議院のコピー、繰り返しとなりがちで、その存在価値が問われれている。参院無用論すらある中、議員定数の拡大などもってのほかというほかない。


参議院議員は都道府県の代表ではなく全国民の代表
選挙制度は憲法改正しなくても法律改正で実現できる

 さらに、都道府県に最低一人という考え方は、議員に都道府県それぞれを代弁させるという考え方が背後にある。この考え方は「両議院は、全国民を代表する議員でこれを構成する」とする憲法43条に反する。国会議員は「全国民を代表する」のであって「都道府県を代表する」ものではない。良識の府とされる参議院の議員にはとくに全国民を代表してもらいたい。

 いずれにせよ、先行すべきは選挙制度を含む参院改革であって合区解消のための憲法改正ではない。都道府県を超えた道州制導入を主張する日本維新の会や希望の党は「参院議員が都道府県を代表する」という考え方には否定的だ。公明党、共産党などからはブロック制による比例代表制を基本とする参議院の選挙制度改革案が出されている。

 参議院に存在意義があるとすれば、小選挙区制の勝利をバックに暴走しがちな衆議院を、「全国民を代表する」という良識に基づいてチェックするという役割が期待される。得票率で表せる民意を正しく反映し議論ができる場が欲しい。

 最後に自民党が改正するという憲法47条を紹介しておこう。憲法47条は「選挙区、投票の方法その他両議院の選挙に関する事項は、法律でこれを定める」と謳っている。合区解消を目的とする定数増にせよ、比例代表ブロック制導入にせよ、「法律」を改正すれば実現できる。憲法改正など必要ないのだ。

 なお教育の無償化も同様に改憲など不要、法律改正で実現できることを付記しておきたい。

2017年11月 6日 12:23

求人倍率、就職率の改善はアベノミクスだけの成果か

(2017年11月6日筆)

 今回の衆議院選挙では18歳以上の国民に新しく選挙権を付与されたが、興味深いのは彼ら若年層の政党支持だ。朝日新聞の出口調査によると、比例区では10歳代の46%、20歳代の47%が自民党に投票したという(下表)。

若年層は自民支持(年代別の比例区投票先、17年衆院選・朝日新聞出口調査)
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 同じ出口調査で10歳代の60%、20歳代の62%が「アベノミクスを評価する」と答え、10歳代の58%、20歳代の61%が「安倍政権が続くのが良い」と答えた。若年層のアベノミクスの成果への評価がきわめて高いといえる。

 若年層が実感できる「アベノミクスの成果」は、安倍総理が国会でも選挙演説でも繰り返し強調してきた完全失業率の低下や有効求人倍率(求職に対する求人の倍率)、就職内定率の上昇だろう。細かい数字には触れないが、これら雇用指標はいずれも改善が著しい。

 しかし、これら雇用指標の改善が「アベノミクス(第2次安倍政権の経済政策)の成果」であると総理に自慢されると、ちょっと待ってほしいといいたくなる。


雇用改善はアベノミクスのずっと以前から続いている
「アベノミクスの成果だ」とは手前味噌が過ぎる

 有効求人倍率など雇用指数の改善は、労働力人口のもとになる生産年齢人口(15歳以上~64歳)の減少が加速した2000年前後からすでに始まっている。アベノミクスの4年間だけの傾向とは言えない。

 例えば有効求人倍率は1999年の0.48倍を底に上昇に転じ、07年には1.04倍まで回復していた。完全失業率は2002年の5.4%をピークに下降に転じ、07年には3.9%まで改善していた。大卒の就職内定率(各年3月卒、4月1日現在の数値、厚労省・文科省調べ)も2000年の91.1%を底に上昇、08年には96.9%まで上昇していた。

 これら雇用指標の改善トレンドはリーマンショック後の2009年にいったん途切れた。有効求人倍率はリーマンショック後の2009年には0.47倍まで急落した。完全失業率は09年には5.1%まで再上昇した。大卒の就職内定率は少し遅れて2011年に68.8%まで低下した。


2009年リーマン危機が雇用改善を一時的にかく乱
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 しかし、上図に見るようにリーマン危機後、有効求人倍率は09年からすぐに回復に転じ、完全失業率も10年から下落に転じている。図にはないが就職内定率も有効求人倍率の回復とは多少時間差はあるが2012年から回復している。

 要するに、完全失業率や有効求人倍率、就職内定率もリーマンショック後の景気急冷(麻生政権下の2009年実質GDP成長率は▲5.42%)が響き急悪化したが、これは一時的な悪化だった。リーマンショック以降、民主党政権下での景気反転上昇に伴ってこれらの雇用指数は再び回復に転じている。

 完全失業率や有効求人倍率、就職内定率は2000年前後から趨勢的な改善を見せており、リーマンショックによる一時的なかく乱(悪化)を経て、民主党政権下もアベノミクス以降も改善傾向を続けている。総理が雇用指標の改善は「アベノミクスの成果だ」とするのは手前味噌が過ぎるといえよう。


就職適齢の若年労働力の減少から就職内定率が改善
退職適齢労働力の非正規雇用拡大で失業率が改善

 特に2000年以降、なぜ失業率や有効求人倍率、就職内定率などの雇用指数が趨勢的な改善傾向を続けているのか。その最大の理由は、下表の5歳階級別労働力人口の推移(労働力調査)で明らかだろう。

 15歳~19歳(中卒・高卒)、20歳~24歳(短大卒・大卒)の就職適齢の若年労働力人口は2000年から2016年までの16年間で211万人減少している。一方、60歳から69歳までの退職適齢の高齢労働力人口は300万人増加している。若年、高齢労働力の増減は少子高齢化に伴うものだ。

就職適齢の若年労働力が減少、退職適齢の高年労働力が増加(単位万人)
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 労働市場に参入する就職適齢労働力が減り、労働市場から退出する退職適齢労働力が増えればダブルで労働力が減少する。2016年の参入減、退出増合計は511万人を数え、役員を除く雇用者数の5500万人の9.2%に達した。

 この労働市場への若年層の参入減が若年層の就職内定率や初任給水準の回復につながった。一方、若年労働力不足が顕在化する中、これを補う高齢者への非正規雇用が増加し、非正規を軸に有効求人倍率が上昇、完全失業率も低下した。以上は、2000年来の労働市場における雇用指標改善の趨勢でもある。

 総理は「政治は結果がすべて」といって雇用指標の改善という結果をすべて自分の手柄にして選挙民の支持を得ようとした。しかし、リーマン危機後の一時的かく乱を除けば、有効求人倍率など指標改善はアベノミクス以前からずっと継続しており、アベノミクスだけの成果ではない。

 選挙後の記者会見でも総理は、相変わらず有効求人倍率や就職内定率の上昇という「結果」を自分の手柄のように語った。その姿勢からは、選挙後、総理が繰り返す「謙虚」という言葉が空しく聞こえるのは小生だけだろうか。

2017年10月24日 12:34

圧勝自民の得票率は小選挙区48%、比例区33%に過ぎない

(2017年10月24日筆)

 今回の総選挙では定数が475議席から465議席(小選挙区289、比例区176)へ10議席削減された。選挙の結果、自民党は公示前勢力の284議席を維持、実質微増、総議席の61%を占有した。公明党は5議席減らし29議席となったが、自公では313議席となり3分の2の310議席を若干上回った。


小選挙区制の恩恵―自民党は得票率48%で75%もの議席を獲得

 野党勢力に大きな変化はあったが、結局、自民党の議席数はあまり変わらず、自公で3分の2議席を確保した。与党は解散前とほぼ同じ勢力だったわけで、600億円もかけて何のために解散総選挙を実施したのか、改めて問われる。

自民は公示前議席と同じ、立民が大躍進、公明、共産、維新は議席減退
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 自民党は小選挙区では289議席中218もの議席を獲得した。この勝利は1票でも多く得票すれば勝てるという小選挙区制の恩恵に浴したものだ。自民党の相対得票率は48%に過ぎないが75%もの議席を占有することになった。

小選挙区・自民党=48%の得票率で75%の議席を占有
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 野党が候補一本化に失敗、希望の党、立憲民主党(立民)・共産党、社民党、野党系無所属などが分立、自公共闘の候補に敗北した結果、野党への投票は死票となり死票率は48%に達した。今となっては空しく響くが「立民、希望、共産、社民、野党系無所属の共闘が成功していれば野党分裂型226選挙区のうち63選挙区で勝敗が入れ替わっていた」(朝日新聞10月24日)という。

 ちなみに投票に行かなかった人を含む全有権者に対する得票率は「絶対得票率」と呼ばれるが、自民党の絶対得票率は25%に過ぎず有権者4人に一人の得票で75%の議席を占有したことになる。自民党の圧倒的な小選挙区議席数は死票になった投票者、投票に行かなかった有権者などを含む多数の民意を反映するものではない。そのことを自民党、特に安倍総理は肝に銘じるべきだ。


3分裂・民進党出身の獲得議席は97、解散前87議席を上回った

 野党はどうか、「自民圧勝」の反語は「野党敗北」だが、最大野党だった民進党出身者の勢力(立民、希望、無所属)は敗北していない。

 枝野代表の立民は前職15名全員が当選、元職を含め40名の民進党出身者が当選した。岡田元代表や野田元総理など民進系無所属前職の当選19名は公示前にほぼ等しい。「野党敗北」最大の戦犯と言われる希望の党は小池代表系の候補者はほぼ全滅したが、民進党系前職は44候補中25名が当選した。

 前職・元職を含む民進党出身の当選者は希望の党38名、立憲民主党40名、無所属19名、合わせて97名だった。解散前の87議席を10議席上回っている。前回14年総選挙時の旧民主党当選者73名を大きく上回った。

 安倍一強に対抗する強力野党が求められる中、小池都知事と前原民進党代表の「排除の論理」によって引き裂かれた民進党出身者の再結集が期待される。


比例区の自民得票率は33%、立民・希望の得票率を下回る

 比例代表選挙では、得票率に応じて議席配分されるため投票者の意思(民意)をほぼ正確に反映される。今回の比例代表選の結果は下表のとおりだ。

比例区の得票率は自民33%台、立民・希望37%を下回る
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 比例区での自民党の得票率33.3%で、獲得議席は総議席数176のうち66議席にとどまる。得票率、当選者数いずれも前回14年総選挙と変わらない。比例代表選挙では自民党は3分の1の民意しか代表していないといってよい。

 一方、立民と希望を足した得票率は37.3%、獲得議席は69議席で自民党の議席を上回った。自公連立ベースの得票率は45.8%となるが、立民・希望・共産・社民の野党共闘ベースの得票率46.9%を下回っている。


死票となった48%の民意を軽視・蔑視してきた安倍総理

 「安倍1強」政治では、民意を正しく反映しない小選挙区で獲得した圧倒的な自民議席を背景に、小選挙区での死票48%、比例区の野党票約47%もの選挙民の政権への疑問、不満、反対意見を無視・軽視・蔑視してきた感が強い。

 安倍総理は衆院選の結果を受けた記者会見で「謙虚で真摯(しんし)な政権運営に努めなければならない。丁寧に説明もする」と神妙な面持ちで語った。死票となった48%の選挙民の意見を慮った故だろうか。しかし総理の口から過去にも何度か同じ言葉を聞かされたことがあるが、何度も裏切られてきた。総理は民意を正しく反映しない選挙制度でも、「選挙に勝てば我にすべて白紙委任」と考えている節があり、総理の「謙虚な政権運営」を信じる人は少ないだろう。

 共同通信社が行った衆院選の出口調査でも、安倍晋三首相を信頼しているかどうか尋ねたところ「信頼していない」が51%、「信頼している」の44.1%を上回った。「支持政党はない」とした無党派層の68.8%が安倍首相を信頼していないと回答、「信頼している」は25.9%のとどまったという。

 無党派層は安倍1強による政権運営上の傲慢、独善、慢心のリスクを強く懸念している。これを排し「下からの草の根民主主義」を訴えた立憲民主党の大躍進がその証拠でもある。選挙民の多くは弱体野党を避け安定政権の継続は望んだが、「安倍1強政治」の継続を望んでいるわけではない。

2017年10月10日 10:02

「排除」の物言い嫌われ小池人気は早や賞味期限切れ

(2017年10月10日筆)

 小池百合子・希望の党代表は民進党リベラル派を排除したが、南京事件はなかったなどという典型的な歴史修正主義の中山成彬氏らを抱き込み右翼へ大きくウイングを伸ばした。中山氏は教育勅語を暗唱させた籠池氏の幼稚園に推薦文を寄せた人物だ。中山氏は自ら合流を希望する民進党員の「思想チェック」を担ったといい、希望の党からは九州ブロック比例名簿トップになるといわれる。

この一事をとっても希望の党は小池氏がいう「寛容な改革保守」からは程遠い。小池氏は関東大震災当時の朝鮮人虐殺事件を都知事として無視する挙に出たが、彼女も安倍総理、中山氏など歴史修正主義者のお仲間なのかもしれない。


「さらさらない」「排除する」で墓穴を掘った小池氏

 それはさておき、中山氏が、小池氏に希望の党の選挙戦の進め方を問うと、彼女は「選挙はテレビがやってくれるのよ」と話したという(朝日デジタル10月5日)。テレビが小池氏の一挙手一投足を絶え間なく報じてさえいれば小池人気は高まるとうそぶいたに等しい。

 しかし、その肝心の「小池人気」も急速に衰えた。特に希望の党の公認候補を選ぶにあたって、小池氏が「民進出身全員を受け入れるつもりはさらさらない」「民進リベラル派は排除する」と言い放った後、小池人気は一気に冷え込んだ。

 小池氏と小池人気にあやかろうとした前原誠司氏(民進党代表)氏の師匠筋にあたる細川護熙元首相(元日本新党代表)は、こういった。(リベラル勢力や首相経験者を選別することに)「排除の論理を振り回し戸惑っている」、「公認するのに踏み絵を踏ませるというのはなんともこざかしいやり方で『寛容な保守』の看板が泣く」(毎日新聞10月3日付)と。「なんともこざかしいやり方」という細川氏の言い方には小池氏への嫌悪感が漂っている。小生も同感だ。

 民主党創設時、鳩山由紀夫(元首相)氏に排除された経験を持つ武村正義(元新党さきがけ代表、元蔵相)も「政党をつくるなら排除よりむしろ吸収力、求心力を高めないと与党に対抗するパワフルな党は生まれない。排除の一件は希望の勢いをそいでしまう」(毎日新聞10月4日付)と話した。一人しか選ばれない小選挙区制のもとでは排除の論理は野党を弱くする。

 「さらさらない」「排除する」という、一時の人気に胡坐をかいた、こざかしい、思い上がった小池氏の言葉遣いに反感、嫌悪感を覚えた選挙民は少なくない。人気の衰えた小池氏にどんな価値があるのか。このままでは小池人気を当て込み希望の党に合流した旧民進党候補者たちは、大いに当てが外れることになる。


「小池新党」の支持急落、排除された旧民進勢力は支持拡大

 武村氏の見る通り排除によって「希望の勢い」はそがれてしまった。読売新聞が10月7~8日に実施した世論調査では衆院比例選の投票先では希望の党は衆院解散直後(9月28~29日)の調査の19%から13%へ6%急落した。

 排除の論理に反発して枝野幸男元民進党代表代行ら民進党リベラル派によって創立された立憲民主党は投票先としていきなり7%の支持を集めた。この調査では比例投票先として解散直後34%を占めていた自民党も立憲民主党党創設後は32%へ2%低下している。希望の党が減らした6%、自民党が減らした2%のほとんどが、立憲民主党への支持に回ったことになる。

 この世論調査の後、野田・元総理や岡田・元民主党代表など民進党前職が20名で無所属ネットワークを立ち上げたという。希望の党への投票先は彼ら排除された「総理経験者ら民進前職無所属」にも食われるに違いない。

 武村氏と一緒に鳩山由紀夫氏の民主党から排除された田中秀征氏(元新党さきがけ代表代行、元経済企画庁長官)は、「岡田克也、江田憲司など自民党を源流とするメンバーが政党をつくってリベラル系を包含すれば国民の渇望に応えて大化けする可能性がある」(朝日新聞10月5日付)と話し民進党前職の無所属ネットワークに大きな期待を寄せている。


戦後保守党思想の核心から遠い安倍総理と小池「希望の党」

 田中秀征氏は新党さきがけの理論的支柱であり、さきがけ当時、今回袂を分けた前原誠司、枝野幸男両氏に影響を与えた政治家でもある。彼は戦後保守思想について以下のように語っている(以下も朝日新聞10月5日付)。

「戦後保守党思想の核心は、憲法尊重と、先の戦争は間違いだったといった歴史認識。安倍首相の路線とは大きく違います。そして希望の党は基本的に安倍路線と同じです。」

「保守党思想にはリベラルな考えを尊重する特徴もあります。吉田茂、鳩山一郎、石橋湛山など戦後保守の先覚者はいずれも自身が第一級のリベラリストでした。リベラル系の民進党議員を排除する希望の党は、その点でも戦後保守の流れとは異質に見えます」

「国民の多くは、現在の自民党による政治に不安を抱き、もう一つの健全な保守の流れを渇望しています。言い換えると、大国主義に陥らず、言論の自由を守りリベラルな意見にも耳を傾ける、真の意味の寛容な保守の政治勢力が求められているのです。しかし、その渇望はどうやら今の希望の党では満たされそうにありません」

 戦後「保守リベラル」の源流の一つとなった石橋湛山(早稲田大学出身、元首相)は戦前、侵略に反対し植民地の放棄を訴える「小日本主義」を唱え、言論を武器に陸軍を筆頭とする国家権力に挑み、いち早く婦人参政権に賛成した人権重視の民主主義の政治家だった。田中氏は保守リベラルを継承した宮沢派に属し、「石橋湛山の孫弟子」と自ら言っていった。


国家主義か真の民主主義(民権主義)かの選択

 石橋湛山翁は小生の属した東洋経済新報社の先輩でもあり、小生もその政治思想に大きな影響を受けた。田中秀征氏は触れていないが、小生は「リベラル(自由主義)」の基本にはもう一つ、国家権力からの自由を訴え基本的人権を尊重するという「国民主権の思想」があると考えている。

 国民の内心の自由を取り締まる「共謀罪」を強行採決し、基本的人権を制限することを可能とする「緊急事態法」を準備している安倍総理が、民権より国権を重視する国家主義者であることは疑いない。小池氏の希望の党は国家主義なのか真の民主主義(国民主権)なのか、聞いてみたいところだ。

 安倍・自民党、小池・希望の党の間で、消費税や原発政策など政策に若干の差異が見受けられるが、公約は保守勢力内の権力争奪の道具に過ぎず、いつ変更されるかわからない。不確かな公約を信じて票を投じると後悔することになる。

 今回は、回り道だが、大国主義か小国主義か、国家主義か真の民主主義か、候補者の基本的な政治姿勢や政治思想を見極めて投票先を選ぶ時かもしれない。
プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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